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SPECIAL SERIES

なぜ人は
「ダメだとわかっている」のに買うのか

脳科学・行動経済学・マーケティング設計——3つのレイヤーから「背徳市場(ギルティ消費)」を解剖し、 自社で応用できる実践フレームまで落とし込む。全3本・完全版。

BESTMAX 編集部|「背徳市場」マーケティング・シリーズ
SERIES OVERVIEW

シリーズの全体像

切り口 問い 主な理論・手法
第1回 脳科学 なぜ「罪悪感のある商品」に人は惹かれるのか 報酬系(ドーパミン)・カリギュラ効果・3社の事例分析
第2回 行動経済学 なぜ「ダメだとわかっていても」買ってしまうのか プロスペクト理論・損失回避性・現在志向バイアス・メンタル・アカウンティング
第3回 マーケティング設計 罪悪感を「正当な買い物」にどう変換するか 免罪符マーケティング4ステップ・業界別キャッチコピー・実践フォーマット
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「背徳市場」マーケティング・シリーズ 第1回

なぜ「罪悪感」が売れるのか

——「背徳市場(ギルティ消費)」に学ぶ、逆張りマーケティングの脳科学
報酬系(ドーパミン) カリギュラ効果 サントリー/ミツカン/ペヤング 逆張り戦略

健康志向、糖質オフ、カロリーカット——この十数年、市場のトレンドは一貫して「我慢」と「節制」の方向に進んできました。ところが今、まったく逆のベクトルを持つ市場が急拡大しています。それが「背徳市場(ギルティ消費)」です。

高カロリー・高脂質・高糖質——健康の常識からすれば「避けるべきもの」が、なぜこれほど強く支持されるのか。経営者・マーケターにとって、この現象は単なる一過性のブームではなく、消費者心理と脳のメカニズムに根ざした「逆張り戦略」のヒントが詰まっています。

脳科学で読み解く「背徳」が売れる理由

人間の脳には、生存に有利な行動(高エネルギーの摂取など)をとった際に、中脳の腹側被蓋野から側坐核へ向けて快楽物質「ドーパミン」を分泌する「報酬系」と呼ばれる回路が備わっています。高カロリー・高脂質な食べ物は、この報酬系を強く刺激する「最も原始的なご褒美」なのです。

さらにここに、もう一つの心理メカニズムが重なります。「カリギュラ効果」——禁止されればされるほど、人はそれを強く欲してしまうという現象です。日常的な健康志向や節約意識(「食べてはいけない」「無駄遣いはダメ」)という"禁止"が強まるほど、その反動として「解禁したときの快感」が増幅されます。

つまり「背徳市場」とは、社会全体の"健康であらねば"というプレッシャーが生み出した、巨大な反作用の市場と捉えることができます。健康志向が強まれば強まるほど、その裏側で「背徳」への需要も比例して大きくなる——この構造を理解しているかどうかが、マーケティング戦略の分かれ目になります。

「ギルティ消費」最前線——3つの企業事例

この市場の急拡大は、もはや一部のニッチ商品の話ではありません。大手食品・飲料メーカーが相次いで「罪悪感」を正面から打ち出した商品を投入しています。3社の事例から、その戦略の共通点を見てみましょう。

事例 01
サントリー「ギルティ炭酸 NOPE(ノープ)」——14年ぶりの新ブランド投入

サントリーは2026年3月、実に14年ぶりとなる炭酸飲料の新ブランド「ギルティ炭酸 NOPE」を発売しました。フルーツやスパイスなど99種類以上のフレーバーをブレンドし、糖度の指標であるブリックス値を一般的な炭酸飲料より高めに設定。「やみつきになる濃い甘さ」をあえて前面に打ち出しています。

背景には、炭酸飲料市場が成長頭打ちで若年層比率が低下しているという課題がありました。そこで同社は「コーラ」「果汁炭酸」といった従来のカテゴリー軸を捨て、「ストレス発散」という消費シーンを新たな切り口として商品設計を行ったのです。

経営者への示唆 成熟市場・縮小市場では「商品カテゴリーの軸」で戦うと価格競争に陥りがちです。NOPEの事例は、「商品が何であるか」ではなく「消費者がどんな感情を満たしたいか」という軸に切り替えることで、新しい市場を切り開けることを示しています。
事例 02
ミツカン「さっぱりなのに罪深い。」——老舗食品メーカーの“背徳”参入

調味料・食品の老舗であるミツカンも、この流れに乗っています。「さっぱりなのに罪深い。」をキャッチコピーに、極旨・辛旨の2品をPPIH(ドン・キホーテ)グループ店舗で先行販売。健康・上品なイメージの強い同社が、あえて「罪深さ」を訴求する商品を投入したことは、業界内でも注目を集めました。

老舗ブランドが持つ「信頼感・安心感」と、トレンドである「背徳感・罪悪感」を掛け合わせる——これは一見矛盾するようでいて、「安心して罪を犯せる」という新しい価値の提案になっています。

経営者への示唆 自社の既存ブランドイメージと、トレンドのキーワードが「真逆」に見えるとき、多くの企業はそれを理由に参入を見送ります。しかしミツカンの事例は、その"ギャップ"自体が話題性・差別化要因になり得ることを示しています。「うちのブランドらしくない」という思い込みを、一度疑ってみる価値があります。
事例 03
ペヤング「超超超大盛り」シリーズ——“やりすぎ”を恒常戦略に変えたロングセラー

まるか食品の「ペヤング超超超大盛りやきそば」は、一杯で1,200kcalを超えるボリュームを売りにし、発売以来、繰り返し話題を集め続けています。「健康のため小盛りを選ぶ」という選択肢が増えるほど、その対極にある「振り切った大盛り」が際立つ構造です。

重要なのは、ペヤングがこれを一過性の話題作りで終わらせず、定番ラインの一部として定着させている点です。「背徳」を一発ネタではなく、ブランドの個性・キャラクターとして恒常化することで、安定したファン層を獲得しています。

経営者への示唆 話題作りのための「一発企画」と、ブランドの個性として根付かせる「恒常戦略」は、似ているようでまったく別物です。背徳市場に参入する際は、「短期的なバズ狙い」で終わらせるのか、「ブランドの一部」として育てるのかを、最初の段階で決めておく必要があります。

3社の事例から見える「背徳マーケティング」の共通構造

企業・商品 もともとのブランドイメージ 「背徳」訴求のポイント
サントリー
「ギルティ炭酸 NOPE」
清涼飲料の大手・健全なイメージ 「ストレス発散」という感情軸でカテゴリーを再定義
ミツカン
「さっぱりなのに罪深い。」
調味料の老舗・安心安全・上品 信頼感×罪悪感のギャップで新しい価値を創出
まるか食品
「ペヤング超超超大盛り」
インスタント食品・庶民的 「振り切り」をブランドの個性として恒常化

3社に共通するのは、「健康・節制」という社会全体の大きな潮流に対して、あえて逆方向のメッセージを明確に打ち出している点です。中途半端に「ヘルシーだけど美味しい」を狙うのではなく、「罪悪感ごと楽しんでもらう」という割り切りが、消費者の共感とSNSでの拡散を呼んでいます。

経営者・マーケターが押さえるべき視点

背徳市場のポイントは、「不健康な商品を作れば売れる」という単純な話ではありません。重要なのは、消費者が無意識に抱えている「我慢のストレス」を正確に言語化し、それを「解放してもいい」という許可を、ブランドの言葉として与えることです。

自社の商品・サービスが属する市場において、「消費者が我慢させられているもの」は何か。そして、その我慢の裏側にある「本当に求めているもの」は何か。この問いに向き合うことが、背徳市場というレンズを通じて見えてくる、新しい商品企画・販促のヒントになります。

まとめ
  • 「背徳市場(ギルティ消費)」は、健康志向の高まりに対する反作用として拡大している
  • 脳の報酬系(ドーパミン)とカリギュラ効果が、消費者の「解禁欲求」を強くしている
  • サントリー・ミツカン・ペヤングの3社は、それぞれ異なる立ち位置から「罪悪感」を正面から訴求し成果を上げている
  • 自社ブランドのイメージと「真逆」に見えるトレンドこそ、差別化のチャンスになり得る
  • 重要なのは「不健康さ」そのものではなく、消費者の我慢を言語化し"解放の許可"を与えること
第2回では、この現象を行動経済学の視点からさらに深く掘り下げます →「行動経済学」タブへ
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「背徳市場」マーケティング・シリーズ 第2回

「ダメだとわかっているのに、買ってしまう」

——行動経済学が解き明かす「背徳消費」の意思決定構造
プロスペクト理論 損失回避性 現在志向バイアス メンタル・アカウンティング

前回は、「背徳市場(ギルティ消費)」が拡大する背景を、脳科学の観点(報酬系・カリギュラ効果)から見てきました。今回はもう一段踏み込んで、「人はなぜ"これを買うのは合理的ではない"とわかっていながら、財布を開いてしまうのか」を、行動経済学の理論から読み解きます。

結論を先に言えば、背徳消費は「衝動」や「意志の弱さ」だけで起きているのではありません。消費者の頭の中では、独自の"損得計算"が確かに行われています。ただし、その計算の「ものさし」が、私たちが想像する一般的な合理性とは違う形に歪んでいるのです。経営者・マーケターにとって、この"歪んだものさし"の構造を理解することは、価格やスペック競争から一歩抜け出すための強力な武器になります。

プロスペクト理論で読み解く「背徳消費」3つのメカニズム

メカニズム 01
参照点依存性——「我慢」が基準になると、贅沢が"得"に見える

人は絶対的な価値ではなく、自分が設定した「参照点(基準点)」との比較で損得を判断します。普段から健康志向や節約、仕事のプレッシャーといった「我慢」を日常の基準にしている人は、その基準自体がマイナス側に沈んでいる状態です。

この状態にある消費者にとって、高カロリー食品の購入や一時的な贅沢は、単なる浪費ではなく「ストレスの泥沼から自分を救い出す、大いなる利得(リフレッシュ)」として解釈されます。

【現場で使える例:飲食チェーンの週末限定メニュー】

平日は「ヘルシーランチ」を選び続けているビジネスパーソンにとって、その我慢の連続が"基準点"になります。金曜日に「週末だけの特大盛りパスタ」が目に入った瞬間、それは「贅沢な出費」ではなく「1週間頑張った自分への正当な利得」として認識されます。

マーケティングの言葉で言えば、「平日の我慢」を可視化させる導線(例:自社アプリでの「今週の頑張り」表示など)を作っておくことで、週末メニューの訴求力は格段に高まります。

メカニズム 02
損失回避性——「我慢し続ける人生の損」から逃げたい

人は「利益を得る喜び」よりも「損失を被る痛み」を約2倍近く強く感じ、それを避けようとします。これを「損失回避性」と呼びます。

現代の消費者は、物価高や自己管理社会の中で「好きなこともできないまま、時間や人生が過ぎていく」という"無形の損失感"を抱えています。背徳消費のマーケティングが「今この瞬間も我慢し続けることは、あなたにとって最大の損ですよ」というメッセージを発するとき、それは消費者の損失回避性を直接刺激し、「我慢をやめる(=買う)」という選択へと誘導しているのです。

【現場で使える例:通販サイトの広告コピー】

「このスイーツ、お試しください」というコピーと、「我慢して何年経ちましたか? 今日くらい、自分を甘やかしても罰は当たりません」というコピーでは、訴求の構造がまったく異なります。後者は商品の魅力ではなく、「買わないこと(=我慢を続けること)」自体を"損"として印象づけています。

経営者・マーケターが意識すべきは、「商品を売る」のではなく「我慢を続けることの機会損失」を顧客に自覚させる、という発想の転換です。

メカニズム 03
感応度逓減性——一度"解禁"したら、ブレーキが利かなくなる

利益も損失も、その量が増えるにつれて、変化に対する心の感度(うれしさ・悲しさ)が鈍くなっていく現象を「感応度逓減性」と呼びます。

ダイエット中に「一口だけ高カロリーなお菓子を食べる」ときの罪悪感が最も強く、一度食べてしまうと、2口目・3口目、あるいは大容量のものを丸ごと食べても、追加で増える罪悪感のダメージは小さくなります(=麻痺する)。

この性質を理解している企業は、最初から「超大容量」「ニンニクマシマシ」といった極端な商品を提示します。すると消費者は「どうせ一回我慢を破るなら、限界まで楽しんだ方が得だ」と考え、一気に極端な消費へと向かいます。

経営者への示唆 「小盛り・中盛り・大盛り」という従来の段階設計ではなく、あえて「振り切った最上位プラン」を一つ用意してみる。それは"売れ筋"にならなくても構いません。その存在自体が、他のプランの「罪悪感のハードル」を下げ、全体の購買心理を動かす"アンカー"として機能します。

需要をさらに強固にする2つのバイアス

プロスペクト理論に加えて、以下の2つの行動経済学的バイアスが、背徳消費の需要をさらに強固なものにしています。

バイアス 01
現在志向バイアス(双曲割引)——「今すぐの快楽」が未来の不安に勝つ

人間には、「将来の大きな利益(将来の健康・老後の貯蓄)」よりも、「目の前の小さな利益(今食べるラーメン・今買うブランド品)」を過大評価する性質があります。これを「現在志向バイアス」または「双曲割引」と呼びます。

背徳消費は、この「今すぐ得られる圧倒的な快楽」を極限まで強調することで、未来の健康や家計への懸念を、消費者の脳内で一時的に"後回し"にさせる構造を持っています。

【現場で使える例:飲食店のPOP・メニュー表現】

「カロリー表示」を大きく見せるメニューは、未来志向(健康管理)を刺激します。一方で「今だけ」「揚げたて」「出来立てジュワッと」といった"今この瞬間"を強調する表現は、現在志向バイアスに直接働きかけます。背徳メニューにおいては、後者の表現を主役に据えることが効果的です。

バイアス 02
メンタル・アカウンティング——「特別な財布」を脳内に作らせる

人はお金や時間を、用途や状況に応じて脳内で別々の"ポケット(勘定科目)"に分類します。これを「メンタル・アカウンティング(心の家計簿)」と呼びます。

企業が「ご褒美」「チートデイ」「金曜日の背徳」といったラベルを貼ることで、消費者は「日常の生活費ポケット(節約モード)」から「特別ストレス発散ポケット(無制限モード)」へと、脳内で勘定を切り替えます。一度この切り替えが起きると、高額・高カロリーな消費へのハードルは一気に下がります。

経営者への示唆 同じ商品・サービスでも、「平日価格」と「ご褒美価格」、「通常メニュー」と「チートデイメニュー」のように"勘定科目"を分けてネーミングするだけで、顧客の支払い意欲は変わります。値引きで売るのではなく、「特別な財布」を新たに作ってあげる発想です。

「損失のフレーミング」を変えることが、最大の武器になる

ここまで見てきた行動経済学の理論に共通するのは、「同じ事実でも、見せ方(フレーミング)次第で、消費者の意思決定はまったく変わる」ということです。

背徳市場で成果を出している企業に共通するのは、「体に悪いものを買う(経済的・健康的な損失)」というフレーミングから、「自分を労わないことこそが、人生における本当の損失である」というフレーミングへの転換です。

この転換ができれば、価格やスペックでの比較競争から脱却し、顧客の感情と深く結びついた、中毒性の高いブランドを構築することが可能になります。重要なのは、商品そのものを変えることではなく、顧客が頭の中で行っている"損得計算のものさし"に働きかける言葉とブランド設計です。

まとめ
  • 背徳消費は「衝動買い」ではなく、独自の基準で行われる"歪んだ損得計算"の結果である
  • 参照点依存性により、「我慢」を基準にしている人ほど、贅沢が"得"に見える
  • 損失回避性により、「我慢を続けること」自体が"損"だと感じさせるメッセージが強く働く
  • 感応度逓減性により、振り切った商品が他の商品の"罪悪感のハードル"を下げる
  • 現在志向バイアスとメンタル・アカウンティングが、未来の懸念を後回しにし、特別な支出を許可する
  • 「損失のフレーミング」を転換できれば、価格競争から脱却した強いブランドが作れる
第3回では、この"歪んだ損得計算"を実際の購買へとつなげる「免罪符マーケティング」の設計手順を解説します →「免罪符設計」タブへ
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「背徳市場」マーケティング・シリーズ 第3回・完結編

「これは仕方のない、正しい買い物だ」

——消費者に"言い訳"を差し出す「免罪符マーケティング」の設計図
セルフ・ライセンシング 4ステップ設計 業界別キャッチコピー 実践フォーマット

第1回では「背徳市場」が拡大する脳科学的な背景を、第2回では消費者の頭の中で行われる"歪んだ損得計算"を、行動経済学の理論から読み解いてきました。最終回となる今回は、いよいよ実践編です。

消費者は、買いたい気持ちと罪悪感の間で揺れ動いています。マーケターの仕事は、商品の魅力を一方的にアピールすることだけではありません。顧客が自分自身を納得させるための"美しい言い訳"を、こちらから先に差し出してあげること——これが「免罪符マーケティング(セルフ・ライセンシング)」です。

免罪符マーケティング・4ステップ設計フロー

1
顧客の「罪悪感(ペイン)」を特定する
その商品を買う・使う際に、顧客の脳内でどんな"ブレーキ"がかかっているかを洗い出す
2
免罪符の「大義名分(言い訳)」を設定する
その罪悪感を相殺するための「理由付け」を設計する
3
商品パッケージ・コピーで「全肯定」する
顧客の心の中の"言い訳"を、企業側から先に言葉にしてあげる
4
購買行動を「システム(仕組み)」化する
顧客が自ら言い訳を探さなくても、購入プロセス自体が免罪符になる仕組みを組み込む

それぞれのステップを、具体例とともに見ていきましょう。

STEP1・2:罪悪感を特定し、「大義名分」を設計する

【STEP1:罪悪感のパターンを洗い出す】

まず、ターゲットが購入時に感じる「後ろめたさ」を分類します。代表的なものは次の3パターンです。

健康・体型への罪悪感:「夜中に食べたら太る」「体に悪い」
経済的・浪費への罪悪感:「贅沢すぎる」「今は貯金すべきなのに」
役割・義務への罪悪感:「家事をサボっている」「家族を置いて自分だけ楽しんでいる」

【STEP2:3種類の「大義名分」】

特定した罪悪感を相殺するために、「Aをするために、Bを持ち出す」という構造で言い訳を設計します。

「努力・報酬」の免罪符:「今週これだけ頑張ったのだから、この贅沢は当然の権利(報酬)だ」
「合理化・多機能」の免罪符:「これは単なる娯楽ではなく、健康・自己投資・仕事の効率化にも繋がるから必要だ」
「一時的な例外」の免罪符:「いつもは節約している。でも『今日だけ』は特別だ」

STEP3:業界別「刺さるキャッチコピー」の設計

設計した免罪符は、キャッチコピーやパッケージ、売り場のVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)に落とし込みます。重要なのは、消費者が心の中で思っている「言い訳」を、企業側から先に言葉にしてあげることです。「自分で自分を甘やかした」のではなく、「企業側から提案されたから、乗っかっただけ」という心理的な逃げ道を用意するのです。

業界 01
飲食・食品業界

「今夜くらい、理性に負けてもいいじゃない。」

深夜の夜食や高カロリースイーツ向けのコピーです。「理性に負ける」という言葉そのものが、セルフ・ライセンシング(自分への許可)を生み、購入の言い訳を企業側から先に作ってあげる構造になっています。

業界 02
美容・コスメ業界

「明日の肌への罪悪感、この1滴で帳消しにします。」

「メイクを落とさずに寝てしまった」「不摂生をしてしまった」という強い罪悪感を抱える層の心理を捉えたコピーです。マイナスをゼロに戻す"救済(免罪符)"としての需要を取り込んでいます。

業界 03
旅行・ホテル(観光)業界

「スマホの電源を切る。それが最初の背徳です。」

デジタルデトックスや高級お籠もりプラン向けです。常に連絡がつく状態を"美徳"とするビジネスパーソンに対し、「あえて繋がらない贅沢(背徳)」という新しい価値を提案しています。

業界 04
プレミアム消費(ファッション・高級時計・自動車)

「この贅沢は、がんばる自分への『確信犯』。」

物価高の中での高額なご褒美消費向けのコピーです。「特別な自分でありたい」という心理(スノッブ効果)を刺激し、贅沢への罪悪感を「自分の意志で選んだ、かっこいい行動」へとすり替えています。

業界 05
エンタメ・コンテンツ業界(動画配信・ゲーム)

「気がつけば朝。そんな悪い夜があってもいい。」

休日前夜の一気見や、夜通しのゲームプレイを促すコピーです。夜更かしという"いけないこと"を、最高のエンタメ体験として全肯定しています。

STEP4:購買行動を「仕組み」にする3つのシステム

最後のステップは、消費者が自発的に言い訳を探さなくても、購入プロセス自体が自動的に免罪符として機能するような仕組みづくりです。

システム 01
「セット・抱き合わせ」システム

サラダと大盛りガッツリ肉メニューをセットにすることで、「野菜も摂っているからセーフ」という免罪符を自動的に付与します。

経営者への示唆自社の「罪悪感が強い商品」に、何か一つ"健全な要素"を組み合わせるだけで、購買へのハードルが下がります。割引よりも効果的な場合があります。
システム 02
「カレンダー・イベント」システム

「チートデイ専用パック」「プレミアムフライデー限定」など、カレンダーの力を借りて「今日買う正当性」を仕組み化します。

経営者への示唆「いつでも買える」商品より、「今日だけ・この曜日だけ」という限定性を持たせた方が、消費者にとって"特別な例外"として購買を正当化しやすくなります。
システム 03
「ドネーション(寄付)・大義」システム

「売上の一部が環境保護に寄付されます」とすることで、贅沢品を買う行為そのものを「社会貢献(良いこと)」にすり替えます。

経営者への示唆高額商品・嗜好品ほど、「買うこと自体に意味がある」という大義を添えることで、罪悪感を一気に打ち消す効果が期待できます。

実践フォーマット:自社商品に当てはめてみる

自社商品で免罪符マーケティングを組み立てる際は、以下の4つの問いに沿って考えてみてください。「高級アイス」を例にした記入イメージも併せてご紹介します。

設計項目思考の問い具体例(高級アイスの場合)
① ターゲットの罪悪感買うときに躊躇する理由は?「夜中にこんなに高い高カロリーのものを食べるなんて……」
② 提供する免罪符どんな言い訳を渡すか?「ストレス発散と明日への活力(投資)」という免罪符
③ 具体的アプローチコピーやパッケージでの表現は?「1日頑張った脳に、15分間の急速回復を。」というコピー
④ 仕組みの導入買いやすくする仕掛けは?金曜日の夜限定でデリバリー・ECの送料無料クーポンを配信する

この4項目を埋めるだけで、「商品の魅力をどう伝えるか」という発想から、「顧客が自分を納得させるための物語を、どう用意するか」という発想へと、設計の軸が大きく変わります。

3回シリーズを振り返って

第1回では、健康志向の高まりに対する反作用として「背徳市場」が拡大している構造と、脳の報酬系・カリギュラ効果を見てきました。第2回では、消費者の頭の中で行われている"歪んだ損得計算"——プロスペクト理論や現在志向バイアス、メンタル・アカウンティングを解説しました。そして今回、その損得計算を"正当化"させる最後のピースとして、「免罪符マーケティング」の設計手順をご紹介しました。

3回を通じて見えてくるのは、「正しさ」だけでは消費者の心は動かないという事実です。一方で、消費者の罪悪感やストレスを無視した訴求も長続きしません。消費者がすでに抱えている感情に寄り添い、それを"正当な理由"へと変換してあげること——これが、価格競争から一歩抜け出すためのマーケティングの本質です。

まとめ
  • 免罪符マーケティングは、顧客の罪悪感を先回りして解消し、購入の「言い訳」をシステムとして提供する戦略である
  • STEP1:顧客が感じる罪悪感(健康・経済・役割の3パターン)を特定する
  • STEP2:「努力・報酬」「合理化・多機能」「一時的な例外」という3種類の大義名分を設計する
  • STEP3:顧客の中にある"言い訳"を、企業側が先にコピーやパッケージで言葉にして全肯定する
  • STEP4:セット販売・カレンダー限定・寄付などで、購買プロセス自体を免罪符として仕組み化する
  • 消費者が求めているのは商品の説明ではなく、「これは仕方のない、正しい買い物だ」と思える物語である
背徳市場・行動経済学・免罪符マーケティング——3つの視点を組み合わせることで、価格やスペックに頼らない、感情に根ざした強いブランドづくりが可能になります。
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  1. 第1回|脳科学
    なぜ「罪悪感」が売れるのか——「背徳市場」に学ぶ逆張りマーケティングの脳科学
    報酬系・カリギュラ効果・サントリー/ミツカン/ペヤングの事例分析
  2. 第2回|行動経済学
    「ダメだとわかっているのに、買ってしまう」——背徳消費の意思決定構造
    プロスペクト理論・損失回避性・現在志向バイアス・メンタル・アカウンティング
  3. 第3回|マーケティング設計(最終回)
    「これは仕方のない、正しい買い物だ」——免罪符マーケティングの設計図
    4ステップ設計・業界別キャッチコピー・実践フォーマット